「中央アジア料理における一期一会」講演会レポ

12/9(土)、おいしい中央アジア協会主催講演会「中央アジア料理における一期一会」が開催されました。
その名の表すとおり、中央アジアにゆかりある3名をスピーカーに招き、主に料理・食文化の観点から自らの経験を交えて中央アジアについてお話し頂きました。
なお、講演会では主にウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンを指して中央アジアという呼称を使用しています。

講演1人目のスピーカーに先崎将弘さんを迎えました。
先崎さんは大学時代、民族問題の研究を専門としまたユーラシア研究所の会員でもあることから、本職の傍ら『美味しい中央アジア』を出版されています。
(※先崎さんのプロフィールはこちら)
先崎さんは大きく分けて5つの観点から中央アジアの食文化の魅力に迫りました。
・ペルシア文化を食
・イスラーム文化と食
・中国文化と食
・ロシア・ソヴィエト文化と食
・朝鮮文化と食
・遊牧民の食文化
ある国について考えるとき、その文化があたかも昔から存在していたかのように思ってしまいがちですが、中央アジアは中国・韓国といった東アジア文化、モンゴルに端を発する遊牧文化、イスラム文化、そして旧ソ連であった経緯からロシア文化など多様な文化が絡み合って形成されているので興味深いです。
よく、中央アジアの料理というと異国情緒溢れる香りを醸し出すような味付けを期待される方も多いですが、中央アジア料理は意外にも塩、クミンが主でとても食べやすいのが特徴です。
その為、日本でいう炊き込みご飯にあたる「プロフ」、平焼きパンの「ナン(ノン)」、饅頭にその呼び名が起因する「マンティ」という小籠包のような食べ物の存在を知るだけでも、中央アジアに対する親しみを感じていただけるでしょう。

2人目にお話しいただいたのは吉田悟さん。
農学部で発酵・乳製品・土壌学を研究され、現在は食品メーカーで勤務されている吉田さんには日本とキルギスの稲作形態と乳製品の比較、科学的考察を語って頂きました。
特に興味をひいたのは米に関するお話です。
昨今の健康ブームで玄米、雑穀米を口に運ぶ機会が増えたとはいえ、日本人には白米が馴染み深いのですが、実は米の野生種は赤茶色の赤米・黒米であり、白米は赤茶色の色が作れなくなった突然変異種らしいのです。
明治政府により白米推進されて以降、白米はキロ単位で購入できる白米に対し、赤米・黒米は大きくても2-300グラム程度でしか販売されていない日本。
その一方でキルギスでは赤米は約175-260円/kg(白米:100-110円/kg)で販売されています。
こうした違いは稲作環境や米の環境耐性、調理方法が関わってきます。
日本は「米をとぐ、しばらく吸水させる、強火、弱火、一瞬強火、蒸らし」という流れで米を炊きますが、キルギスではあくまで一例ですが「米をとぐ、吸水させておく、鍋で油を熱する、肉を炒める、骨を1本・たまねぎ・人参を炒める、吸水させておいた米を投入、トマト投入、弱火」という手順をとります。
日本式の調理方法では、赤米に含まれるタンニン(赤米を赤茶色たらしめる成分)が米を研いだあとのヌカに残り、それが加熱中に溶け出して全体に広がってしまうために渋み・苦味を感じてしまい味がよくないと避けられ、白米が好まれてきました。
先述の中央アジアの炊き込みご飯「プロフ」は、キルギスでは赤米でつくるほうがおいしいと言われています。
タンニンはたんぱく質やミネラルと結びつくことで水に溶けなくなるので、赤米はそれらを多く含む肉・骨・野菜と調理されるのです。
このように、米ひとつとっても調理方法が異なり米文化の強い日本との対比がみえてきます。とてもおもしろい観点でした。

そしてこの日最後に登壇していただいたのは中川亜紀さん。
3年間のロシア駐在中にウズベキスタン人、カザフスタン人と知り合い、帰国後は中央アジアのご友人とも連絡を取り合いながら、日本でロシア・旧ソ連圏の料理教室の開催、現地雑誌やテレビなどで日本の家庭料理を通じて日本文化を伝える活動も行っています。
実は中央アジアでは「おもてなし文化」がみられます。中央アジアの伝統では、客人は国に伝わる家庭料理によってお腹いっぱいになるまでもてなされ、お茶をご馳走される習慣があります。
中川さんは日本に帰国されてからもウズベキスタン、カザフスタンの方々と出会っており、彼ら・彼女らと交流する中で本場ではユルタという折りたたみ式の住まいで行われる先のおもてなし精神は、日本で暮らしていても変わらず生き続けていると語っていました。

講演会の後、事前申込制で立食パーティを開き、以下のメニューを試食いただきました。
・ビーツサラダ
・オリビエサラダ(ポテトサラダ)
・レンズ豆のスープ
・プロフ
・ボルソック(揚げパン)
・ドライフルーツ、ナッツ

パーティでは、思ったより食べやすい、という感想をいただいたり、食文化の話から発展して中国で8年の駐在経験のある方から中国の食事情を伺ったりと、参加者から思い思いの反響を頂戴しました。
講演でも触れた料理を実際に口にすることで、少しでも中央アジアとは、そこに住む人々の暮らしぶりとは、に思いを馳せていただけたら幸いです。
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